第5講 立憲主義・社会契約説をゼロから解説|共テ公共・政経ゼロから8割講座

第5講 立憲主義と社会契約説|共テ公共・政経ゼロから8割講座

← 解説講義一覧に戻る

共テ公共・政経ゼロから8割講座 / 第2章・第5講

立憲主義・社会契約説をゼロから解説

「多数決で決まれば、何をしてもよいのでしょうか?」
この問いから、国家権力を制限して人権を守る仕組みを学びます。

身近な例 → 用語の意味 → 思想や歴史のつながり、の順に解説します。動画の復習や授業の台本として活用してください。

学習のゴール:立憲主義・法の支配・社会契約説・権力分立・人権保障の発展を、自分の言葉で説明できるようになること。

授業動画を見る

YouTubeで動画を開く ↗

授業テキスト

テキストを手元に用意して、重要な用語や考え方を書き込みながら受講しましょう。

第5講のテキストを開く・保存する(PDF) 第2章の一括版(第5〜8講)を開く ↗

PDFは別タブで開きます。端末のダウンロード・共有メニューから保存できます。

赤字の語句と[番号]は、テキストの穴埋め[1]〜[15]に対応しています。[4]は印刷済みの「説」の前に「社会契約」を記入します。

項目名を押すと解説が開きます。読みたい項目だけ開いてください。もう一度押すと閉じられます。

1.多数決にも限界がある:立憲主義と法の支配

国家の力は、何のためにあるのか

30人のクラスで、29人がこんなルールに賛成しました。
「残りの1人は、一切発言してはいけない」賛成の数は圧倒的です。それでも、「多数決だから仕方がない」と納得できるでしょうか。

人数が多いというだけで、誰かの権利を奪ってよいとはいえません。

政治でも同じ問題が起こります。選挙で多数の支持を得た政府であっても、何をしても許されるわけではありません。この授業では、国家権力を必要としながら、その権力の乱用をどう防ぐかを考えていきます。

そもそも、国家に力があること自体が悪いわけではありません。盗難が起きたときには警察が捜査し、争いが起きたときには裁判所が判断します。

税を集めて道路などを整えたり、社会全体に関わるルールを実行したりするためにも、公的な権力が必要です。誰もルールを守らせることができなければ、力の強い人の言い分だけが通るかもしれません。

しかし、同じ力が人々に向けられる危険もあります。政府に反対する人を逮捕したり、都合の悪い意見を禁止したりできるなら、秩序を守るはずの力が自由を奪う力になってしまいます。

そこで必要になるのが、権力を使う側にも守らせるルールです。

立憲主義:憲法で権力を制限し、人権を保障する

[1]立憲主義とは、憲法によって国家権力を制限し、人権を保障する考え方です。ここでは「何を制限するのか」と「何のために制限するのか」をセットで覚えてください。制限する対象は国家権力、目的は人権の保障です。

憲法は、国会・内閣・裁判所などの仕組みを定めるだけでなく、国家が侵してはならない権利も定めています。権力者に対して「この手続を守ってください」「この権利を侵してはいけません」と枠を設けるわけです。

単に国民に命令するためのルールとして捉えると、近代的な立憲主義の意味を見失ってしまいます。

例えば、議会が「政府への批判を一切禁じる法律」を成立させたとします。正しい手続で成立しても、表現の自由を侵害する内容は問題です。

日本では憲法が最高法規であり、憲法に反する法律が、多数決という理由だけで正当化されることはありません。

また、「憲法」という名前の文書があるだけでも不十分です。そこに権力者の無制限の権限しか書かれていなかったり、人権保障が実際には働いていなかったりすれば、立憲主義が実現しているとはいえません。

文書の名前よりも、権力を制限して人権を守る内容と仕組みに注目しましょう。

民主政治とは、対立するのではなく支え合う

民主政治は、政治の決定に人々の意思を反映させる考え方です。多数決は意見が一致しないときに決定をする重要な方法ですが、多数派の判断が常に正しいことを保証する方法ではありません。

少数派も意見を述べ、次の選挙などで支持を広げられることが大切です。

政府批判を禁止してしまうと、反対意見を伝えたり、政策の問題点を知ったりすることが難しくなります。その結果、次の政治的な選択そのものがゆがめられてしまいます。

立憲主義が自由や権利を守ることは、民主政治を成り立たせる条件を守ることにもつながるのです。

法の支配:権力者も法の上には立てない

[2]法の支配とは、権力者の気分や都合による支配を退け、権力者自身も、人権保障を目的とする法に拘束されるという原理です。「気に入らないから罰する」「身内だから見逃す」という恣意的な政治を防ぎます。

注意したいのは、法律という形さえあれば何でもよい、という意味ではないことです。仮に「政府への反対者を理由なく拘束できる」という法律を作っても、それを根拠にしただけで法の支配が実現するわけではありません。

法の内容が権利・自由を保障するものであることが問われます。

試験では、法律に基づくという形式を重視する形式的法治主義との違いが狙われます。ただし、「法治主義はすべて人権を無視する」と覚えるのも不正確です。法の内容や人権保障まで重視する実質的法治主義は、法の支配に近い考え方です。

区別するときは「形式だけか、内容まで問うか」を確認してください。

ここで一言:「多数決で決まったから正しい」だけでは足りません。決め方に加えて、決めた内容が憲法や人権保障に反していないかを考えるのが、この部分のポイントです。

2.国家より先に権利を考える:自然権と社会契約説

人間の権利は、国王からのプレゼントなのか

ここまで、国家権力を制限して人権を守ることを学びました。では、その権利は誰が与えたのでしょうか。国王が与えたものなら、「今日から取り上げる」と言われたとき、対抗する根拠が弱くなってしまいます。

そこで重要になるのが、[3]自然権です。これは、人間が生まれながらに持っていると考えられた権利を指します。支配者の好意や許可によって初めて得られるものではありません。

生まれたばかりの子どもの生命も、政治家の役に立つかどうかとは関係なく大切にされるべきだ、という方向で考えると理解しやすいでしょう。

ロックが重視した生命・自由・財産は、この自然権の代表例です。また、自然権と自然法を混同しないようにしましょう。自然法は、人間の理性などに根拠を置く普遍的な規範として考えられたものです。

ここでいう「自然」は、山や川のことでも、重力のような科学の法則のことでもありません。

国家を、人々の合意から説明する

人間に権利があるとして、どうして国家の命令に従う必要があるのでしょうか。これに対して、人々の合意や契約から、国家の成立や統治の正当性を説明するのが[4]社会契約説です。

「支配者が神から権力を授かったから従う」という王権神授説とは、説明の出発点が異なります。

ここでいう契約は、遠い昔に全員が一枚の契約書へ署名したという歴史上の出来事を意味しません。「共通の権力がなければ、どんな問題が起こるか」。
「その問題を解決するために、どんな政治の仕組みが必要か」。


こうした問いを考えるための理論です。

その出発点となる、政治社会が成立する以前の状態を自然状態と呼びます。自然状態をどう捉えるかによって、必要な国家の姿も変わってきます。3人の思想は、次の順番で比べましょう。

  1. 国家ができる前の人間は、どんな状態か。
  2. なぜ国家が必要なのか。
  3. 国家にどのような権力を持たせるのか。

この順番で考えると、人物名や著書も意味と結びつきます。

3.ホッブズ・ロック・ルソーを、理由から理解する

ホッブズ:安全がなければ、安心して生きられない

[5]ホッブズは、共通の権力が存在しない自然状態を、「万人の万人に対する闘争」として捉えました。人々は自分の生命を守ろうとしますが、互いの行動を確実に抑える力がなければ、相手への不安や警戒が生まれます。

例えば、苦労して育てた野菜を、誰かに奪われるかもしれないとします。警察や公平に判断する機関がなければ、自分で守るしかありません。相手が襲ってくる前に自分が先に動こうと考える人も現れます。

すると相手も警戒を強め、互いに安心できなくなります。

「闘争状態」は、全員が一日中ずっと殴り合っているという意味に限定されません。争いを防ぐ確かな保障がなく、常に争いが起こりうる状態と捉えると、ホッブズの問題意識が分かります。

安全が保障されなければ、安心して働くことも、生活を計画することも難しくなります。

そこで、人々が互いに契約し、強い主権者に権力を集中させ、平和と安全を確保する必要があると考えました。代表的な著書は『リヴァイアサン』です。

強大な国家を認める結論と、人々の合意から国家を説明する出発点を、両方押さえてください。強い権力を重視するからといって、王権神授説と同じ理論になるわけではありません。

ホッブズを一文で:共通の権力がなければ安全が脅かされるため、人々は契約によって強い主権者を立て、平和を確保する。

ロック:政府は、もともとある権利を守るために存在する

[6]ロックも社会契約説を唱えましたが、自然状態を必ずしも全面的な闘争状態とは考えませんでした。人間には理性があり、生命・自由・財産といった自然権を持つ、自由で平等な存在として捉えたのです。

それなら、政府はいらないのでしょうか。そう単純ではありません。争いが起きたとき、自分が当事者なのに自分で正しさを判断すると、自分に都合のよい判断をしがちです。公平に判断する機関がない。判断を実行する力もない。

そうした状態では、権利の保障が不安定になります。そこで人々は、権利をより確実に守るために政府を作ります。

この関係を理解するために、文化祭の準備を考えましょう。クラスの全員から1,000円ずつ集め、会計係に管理を任せました。任せた理由は、文化祭のために適切に使ってもらうためです。

会計係が自分の買い物に使ってよいという意味ではありませんよね。

ロックのいう信託も、目的を持って権限を委ねるという考え方です。人民は、自分たちの自然権を守ってもらうために政府へ権力を任せます。権利の持ち主はあくまで人々であり、政府が自由に取り上げてよいわけではありません。

「権利を守るために政府がある」という順序が大切です。

抵抗権:政府が信託の目的に背いたらどうするか

もし政府が、守るはずの人民の権利を侵害したらどうなるでしょうか。会計係が預かったお金を勝手に使えば、任せた側は抗議できますよね。政府の権力も、無条件に認められるものではありません。

ロックは、政府が信託に背いて権利を侵害する場合に、人民が抵抗する[7]抵抗権を認めました。

これは、「政策が少し気に入らなければ何をしてもよい」という話ではありません。政府が権力を委ねられた目的を壊し、権利を侵害することが問題なのです。

ロックの代表的な著書は『統治二論』で、その思想は名誉革命を理論的に支えるものとなり、アメリカ独立宣言にも影響しました。

ホッブズと比べると、違いがはっきりします。ホッブズは強い権力による安全の確保を重視し、ロックは自然権を保障するための限定された政府と信託の関係を重視します。

「人民の権利を侵害する政府への抵抗権」を人物と結びつける問題では、ロックを選びましょう。

ルソー:人民自身が主権者であり続ける

[8]ルソーが問い直したのは、人々が共同体を作っても、どうすれば自由で平等な存在であり続けられるかという問題です。ルソーは、私有財産の発達などによる社会の不平等を批判しました。

そして、人々が対等に共同体を作る社会契約を考えました。

その政治の基礎になるのが、[9]一般意志です。これは共同体全体の共通利益を目指す意志を意味します。「多くの人が言っている意見だから一般意志」という意味ではありません。

例えば、クラスで集めたお金について、29人が「残りの1人には一切使わせず、自分たちだけに配ろう」と決めたとします。

多数の賛成を得ていても、自分たちの取り分を優先しているだけなら、共同体の共通利益を考えた判断とはいえません。一方、誰もが使う設備や活動について、全員に共通する立場からルールを考えてみましょう。

これが、共通利益という視点に近づく考え方です。

この例は考え方を理解するためのものです。特定の使い道なら必ず一般意志になる、と機械的に判定することはできません。大切なのは、各人が私的な損得だけを主張するのか、共同体の一員として共通の利益を考えるのかという違いです。

一般意志・全体意志・多数決を区別する

個々人が私的利益から持つ意志は特殊意志と呼ばれ、その総和である全体意志は一般意志と区別されます。「全体」という名前でも、個人の希望を足し合わせるだけなら、必ずしも共通利益へ向かうとは限らないのです。

多数決は賛成と反対の数で決める方法であり、一般意志は共通利益を目指す意志です。方法と内容を同じものにしないでください。多数決が一般意志を示すことはありえても、どんな多数決の結果も自動的に一般意志になる、とはいえません。

また、ルソーは主権を人民に置き、その主権は他者に譲り渡せないと考えました。政府は政治を執行する役割を持ちますが、人民から主権を受け取って自由に支配する主体になるわけではありません。代表的な著書は『社会契約論』です。

「人民主権」と「主権の譲渡できなさ」を結びつけて覚えましょう。

3人の違いを、表で確認しよう

社会契約説:国家を必要とする理由と権力のあり方
思想家出発点と国家の目的権力のあり方・著書
ホッブズ共通の権力がない自然状態では安全が不確かになる。闘争状態を脱し、平和と安全を確保する。強い主権者による秩序の維持。
『リヴァイアサン』
ロック人々は生命・自由・財産などの自然権を持つ。その権利を確実に保障するため政府を作る。政府へ権力を信託。権利を侵害する政府への抵抗権。
『統治二論』
ルソー自由で平等な人々が共同体を構成し、共通利益に向かう一般意志に基づく政治を考える。人民自身が主権者。主権は他者に譲渡できない。
『社会契約論』

選択肢の読み方:人物名だけで判断せず、「何のための国家か」「人民と政府はどんな関係か」を確認しましょう。「ルソーは人民主権を説いたので、主権を政府に完全に譲渡すると考えた」のように、前半が正しくても後半が誤っている文があります。

4.権力を分けて自由を守る:モンテスキュー

ルール作り・実行・判定を、全部一人に任せたら

国家が必要だとして、その権力をどのように配置すればよいのでしょうか。ここで、ある人が競技のルールを作り、試合を運営し、自分への苦情まで一人で判定する場面を想像してください。

自分に不利になるとルールを変えたり、相手の反則だけを厳しく判定したりできてしまいます。

政治でも、ルールを作る力、実行する力、争いを判断する力が集中すると、権力の乱用を止めにくくなります。この問題に対して、[10]モンテスキューは『法の精神』で[11]権力分立を説きました。

目的は仕事を効率よく分担することだけでなく、権力の集中と乱用を防いで人々の自由を守ることです。

立法・行政・司法の3つの働き

  • 立法:法律を作る働きです。日本では国会が担います。
  • 行政:法律に基づいて政策を実施するなど、国の政治を行う働きです。日本では行政権は内閣に属します。
  • 司法:具体的な争いに法を適用し、判断する働きです。日本では裁判所が担います。

分けた機関は、互いに無関係になるわけではありません。権力分立では、抑制と均衡、つまり互いに権力をチェックする関係が重要です。日本では、例えば次のようにチェックします。

  • 衆議院:内閣不信任決議によって、内閣の政治的責任を問う。
  • 裁判所:具体的な事件の裁判で、法律や行政の行為が憲法に適合するかを審査する。

役割を分けるだけでなく、互いに抑えることが大切です。

もちろん、モンテスキューの議論と現在の日本の制度が、そのまま同じという意味ではありません。ここでは、権力を分けて互いに抑えるという考え方が、現代の統治の仕組みにもつながっていることを押さえておきましょう。

似ている用語は「何への答えか」で整理する

3つの用語は、それぞれ別の問いに答えています。

  • 国民主権:政治の最終的な決定権は、誰にあるか。
  • 立憲主義:国家権力を何で制限し、人権を守るか。
  • 権力分立:権力をどう分け、互いにチェックするか。

どれも民主政治に関係しますが、説明している対象が違います。

ここまでのつながり:人々の権利を守るために国家を作る。しかし国家も権利を侵しうる。だから憲法と法で制限し、権力を分けて互いにチェックさせる。この順番で説明できれば、用語がばらばらになりません。

5.人権保障はどう広がったか:自由権から社会権へ

1215年 マグナ・カルタ:国王も無制限ではない

人権保障は、一度の出来事で完成したわけではありません。まずイギリスでは、1215年のマグナ・カルタ(大憲章)が、国王の権力に制約を設ける重要な文書となりました。

国王であっても、自由に課税したり、法的な手続を無視して拘束したりできるわけではない、という方向につながります。

ただし、当時から現代と同じように、すべての人の平等な人権が保障されたわけではありません。主として貴族などの権利・特権を守る性格を持つ文書でした。権力制限の先駆けであることと、普遍的な人権保障が完成していたことは別です。

1628年 権利の請願から、1689年 権利章典へ

1628年の権利の請願は、議会の同意を得ない課税や、不当な拘禁などに反対し、国王に権利の尊重を求めました。その後も国王と議会の対立は続き、1688年の名誉革命を経て、1689年の[12]権利章典につながります。

権利章典では、議会の権限が確認されました。国王による法律の停止などを制限し、議会の同意なしの課税を否定したのです。国王の意思だけで政治を進める仕組みから、議会を重視する政治へ進んだことが大切です。

名誉革命は1688年、権利章典は1689年と、出来事と文書の年を区別しましょう。

ここでも、すぐに全住民へ平等な参政権が認められたわけではありません。王権の制限と議会政治の発展、さらに選挙権の拡大は、関連しながらもそれぞれ過程を持っています。

1776年 アメリカ独立宣言:権利を守るための政府

アメリカ独立宣言は、人々の平等と、生命・自由・幸福追求などの権利を掲げました。政府はこうした権利を確保するために設けられ、その正当な権力は統治される側の同意に基づくという考え方です。

ここでロックを思い出してください。権利は政府からの贈り物ではなく、政府の目的は人々の権利を守ることでした。その目的を壊す政府に対して政治のあり方を変えるという論理に、自然権や抵抗権の思想とのつながりが見えます。

用語の違いにも注意しましょう。

  • ロック:生命・自由・財産
  • 独立宣言:生命・自由・幸福追求

思想はつながっていますが、表現は同じではありません。

1789年 フランス人権宣言:人権保障と権力分立

フランス革命の中で採択された[13]フランス人権宣言は、自由・平等、国民主権などを掲げました。生まれによる身分差を当然とする政治に対して、人間の権利を基礎に社会を考える方向を示した文書です。

特に、人権保障と権力分立を憲法の重要な条件としている点を、今回の学習と結びつけてください。憲法という文書さえあればよいのではなく、権利を守ることと権力を分けることが必要だ、という立憲主義の理解につながります。

ただし、宣言に自由や平等が掲げられたことと、社会の全員が直ちに対等な権利を享受できたことは同じではありません。女性の政治参加や奴隷制など、理念と現実の間には大きな隔たりがあり、その後も権利を広げる運動が続きました。

歴史は「文書ができたので人権問題が全部解決した」と読まないようにしましょう。

自由権だけで、人間らしい生活はできるのか

市民革命を通じて重視されたのは、国家に不当に干渉されない自由です。考えを表明する、信仰を持つ、不当に拘束されない、経済活動を行う。こうした自由権は「国家からの自由」と整理されます。

しかし、産業革命を経て資本主義が発展すると、別の問題が見えてきました。工場などの生産手段を持つ資本家と、働いて賃金を得る労働者では、経済的な立場が異なります。

長時間・低賃金の仕事でも、それを断れば生活ができない人にとって、契約を自由に結べるというだけでは十分でない場合があります。

例えば、「条件が嫌なら契約しなくてもよい」と言われても、ほかに仕事がなく、明日の食事にも困っているなら、本当に対等な選択とはいいにくいですよね。

法的に同じ自由があることと、その自由を実際に使える条件があることは違うのです。

人々は、労働条件を改善する運動や、政治に意思を反映させるための参政権拡大の運動を進めました。国家の介入を抑えるだけでは、十分ではありません。生活や労働を支える役割も、国家に求められるようになります。

1919年 ワイマール憲法と、社会権の保障

この流れの中で重要なのが、1919年、ドイツで制定された[14]ワイマール憲法です。社会権を明文化した憲法として重要です。経済生活でも、人間にふさわしい生活を保障する方向を示しました。

[15]社会権とは、人間らしい生活を送れるよう、国家に積極的な保障を求める権利です。「国家による自由」という言葉で整理されます。

生活を支え、教育の機会や労働条件を保障するなど、自由に生きるための条件を整えることが重視されます。

日本国憲法では、生存権、教育を受ける権利、勤労の権利、労働基本権などがこの学習につながります。例えば生存権は、単に国家に干渉されないだけでなく、人間らしい生活の保障を求めるという点に着目すると、社会権である理由が理解できます。

具体的な条文や制度は、後の人権の講義で詳しく確認しましょう。

ここで、「社会権が登場したので自由権が不要になった」と考えてはいけません。生活が保障されても、政府への批判が一切禁止されていたら問題です。

反対に、発言する自由があっても、極端な困窮によって生活や学習の機会が奪われれば、それも重大な問題です。自由権に社会権が加わり、人権保障が広がったと理解してください。

歴史を一本の流れに:国王の権力を制限する → 自由・平等や人民の権利を政治の基礎に置く → 自由を実際に使えるよう、生活・教育・労働の保障も求める。年号は、この変化と結びつけて覚えましょう。

問題を解く前の、口頭チェック

次の4つを、それぞれ一文で説明してみましょう。

  • 多数決でも、許されない決定があるのはなぜか。
  • ロックの政府は、何を任されているのか。
  • 一般意志と多数決を、同じ意味にできないのはなぜか。
  • 自由権に加えて、社会権が必要になったのはなぜか。

理由まで説明できれば、表現の異なる選択肢にも対応しやすくなります。

6.確認問題で各項目を復習しよう

選択式は全17問(テキスト対応2問+項目別15問)です。項目名を押すと問題が開きます。解きたい項目だけ開いて取り組みましょう。もう一度項目名を押すと閉じられます。選択肢を1つ選んで「答え合わせ」を押すと、正誤と解説を確認できます。「もう一度解く」で選び直せます。選択内容や記入内容は保存・送信されません。

テキスト対応問題(2問:E1・E2)

E1 立憲主義と民主政治

立憲主義と民主政治の関係について、最も適切な説明はどれか。

答えを1つ選んでください

E1の解答・解説を開く

正解:2

立憲主義は、憲法で国家権力を制限し、人権を保障する考え方です。選挙などで支持を得た多数派も、この制限を受けます。

  • 1:多数決で決まっても、憲法に反する人権侵害は正当化されません。
  • 2:多数派の権力も憲法に従うため、正しい説明です。
  • 3:立憲主義は政治参加を禁じる考え方ではありません。
  • 4:名称だけでなく、実際に権力を制限して人権を保障する内容が必要です。

E2 社会契約説

社会契約説について述べた文として、誤っているものはどれか。

答えを1つ選んでください

E2の解答・解説を開く

正解:3(誤っている説明)

ルソーは、主権は人民にあり、他者へ譲り渡すことはできないと考えました。「人民自身が主権者」という前半は正しく、「政府へ完全に譲渡される」という後半が誤りです。

  • 1:ホッブズは平和と安全のために強い主権者を必要としました。
  • 2:ロックの抵抗権の説明として正しい内容です。
  • 3:主権の譲渡を認めたという部分が誤りです。
  • 4:社会全体の共通利益を目指す一般意志と人民主権を重視した、という正しい説明です。

詳しい解説の項目別チェック(追加15問)

各問題で選択肢を1つ選び、「答え合わせ」を押してください。正誤と各選択肢の解説が表示されます。間違えたら、解説や「本文を復習する」のリンクで確認し、「もう一度解く」で再挑戦しましょう。

1.立憲主義と法の支配(2問)

Q01 立憲主義が実現する条件

立憲主義の説明として、最も適切なものはどれか。

答えを1つ選んでください

Q01の解答・解説を開く

正解:2

  • 1(誤り):文書の名称だけでは不十分です。実際に権力を制限し、人権を守ることが必要です。
  • 2(正しい):国家権力の制限と人権保障を結びつけているため、適切です。
  • 3(誤り):多数の支持を得た政府も、憲法の制限を受けます。
  • 4(誤り):統治の仕組みや人権保障を定め、国家権力に枠を設ける役割もあります。

本文を復習する:1.立憲主義と法の支配

Q02 法の支配と法律の内容

法の支配について、最も適切な説明はどれか。

答えを1つ選んでください

Q02の解答・解説を開く

正解:4

  • 1(誤り):法の形式だけでなく、権利・自由を保障する内容が問われます。
  • 2(誤り):権力者も法の上には立てません。
  • 3(誤り):実質的法治主義は法の内容や人権保障を重視し、法の支配に近い考え方です。
  • 4(正しい):恣意的な権力行使を防ぎ、人権保障を重視する原理を説明しています。

本文を復習する:1.立憲主義と法の支配

2.自然権と社会契約説(2問)

Q03 自然権の出発点

自然権の考え方に最もよく当てはまるものはどれか。

答えを1つ選んでください

Q03の解答・解説を開く

正解:1

  • 1(正しい):自然権は、生まれながらの権利を意味します。支配者からの恩恵とは区別されます。
  • 2(誤り):支配者が与えるものだとする説明は、自然権の出発点と異なります。
  • 3(誤り):政府への有用性を条件に与えられる権利ではありません。
  • 4(誤り):自然権は権利に関する概念です。自然法も、ここでは科学の法則を意味しません。

本文を復習する:2.自然権と社会契約説

Q04 社会契約説とは何か

社会契約説について、最も適切な説明はどれか。

答えを1つ選んでください

Q04の解答・解説を開く

正解:3

  • 1(誤り):自然状態の捉え方や、必要とされる権力のあり方は思想家によって異なります。
  • 2(誤り):実際の署名の記録を説明する歴史上の説ではありません。
  • 3(正しい):国家を人々の合意から説明する点が中心です。
  • 4(誤り):これは王権神授説に対応する説明であり、社会契約説とは出発点が異なります。

本文を復習する:2.自然権と社会契約説

3.ホッブズ・ロック・ルソー(3問)

Q05 ホッブズが強い権力を求めた理由

ホッブズの考え方として、最も適切なものはどれか。

答えを1つ選んでください

Q05の解答・解説を開く

正解:2

  • 1(誤り):ホッブズは、共通の権力がない自然状態で安全が不確かになることを問題にしました。
  • 2(正しい):平和と安全のために強い主権者を必要とする、という論理です。著書は『リヴァイアサン』です。
  • 3(誤り):これはルソーの説明です。
  • 4(誤り):強い権力を認めても、人々の合意から説明する社会契約説であり、王権神授説と同じではありません。

本文を復習する:3.ホッブズ・ロック・ルソー

Q06 ロックの信託と抵抗権

会計係に文化祭のお金を任せる例は、ロックの信託を理解するための例である。政府との関係を最も適切に説明したものはどれか。

答えを1つ選んでください

Q06の解答・解説を開く

正解:4

  • 1(誤り):信託には自然権を保障するという目的があり、政府の権力は無条件ではありません。
  • 2(誤り):人々は政府に先立って自然権を持つと考えます。
  • 3(誤り):抵抗権は、単なる政策への不満があれば何をしてもよいという意味ではありません。
  • 4(正しい):権利を守るための信託と、その目的に背いた政府への抵抗権がつながっています。著書は『統治二論』です。

本文を復習する:3.ホッブズ・ロック・ルソー

Q07 一般意志と多数決

クラスの多数派が、共同のお金を自分たちだけに配ると決めた。この例を使った一般意志の説明として、最も適切なものはどれか。

答えを1つ選んでください

Q07の解答・解説を開く

正解:1

  • 1(正しい):一般意志は共通利益を目指す意志です。票数の多さだけで判断できません。
  • 2(誤り):多数決という決め方と、共通利益を目指すという内容は区別します。
  • 3(誤り):私的な意志の総和である全体意志は、一般意志とは区別されます。
  • 4(誤り):ルソーは人民自身を主権者とし、主権は他者に譲渡できないと考えました。

本文を復習する:3.ホッブズ・ロック・ルソー

4.権力分立(2問)

Q08 権力分立の目的

モンテスキューの権力分立について、最も適切な説明はどれか。

答えを1つ選んでください

Q08の解答・解説を開く

正解:3

  • 1(誤り):権力の集中を防ぐことが重要です。
  • 2(誤り):単なる役割分担ではなく、抑制と均衡が重要です。
  • 3(正しい):『法の精神』で説かれた考え方で、自由を守ることが目的です。
  • 4(誤り):権力分立の説明ではありません。また、ルソーも主権の完全な政府への譲渡を認めていません。

本文を復習する:4.権力分立

Q09 国民主権・立憲主義・権力分立

用語と、それが主に答える問いとの組合せとして、最も適切なものはどれか。

答えを1つ選んでください

Q09の解答・解説を開く

正解:2

  • 1(誤り):機関に権力をどう分けるかは、権力分立に関わる問いです。
  • 2(正しい):最終的な決定権の所在を説明する用語が国民主権です。
  • 3(誤り):立憲主義は、憲法で権力を制限し、人権を保障する考え方です。
  • 4(誤り):生まれながらの権利は自然権の説明です。権力分立は権力の配置とチェックに関わります。

本文を復習する:4.権力分立

5.人権保障の歴史(6問)

Q10 マグナ・カルタの位置づけ

1215年のマグナ・カルタについて、最も適切な説明はどれか。

答えを1つ選んでください

Q10の解答・解説を開く

正解:4

  • 1(誤り):これは1919年のワイマール憲法に対応します。
  • 2(誤り):現代の普遍的な人権や平等な参政権が、この時点で完成したわけではありません。
  • 3(誤り):王権に制約を設ける文書として重要です。
  • 4(正しい):権力制限の先駆けであることと、当時の保障対象には限界があったことを両方押さえます。

本文を復習する:5.人権保障の歴史

Q11 イギリスの王権制限

イギリスで王権を制限する動きの順序として、正しいものはどれか。

答えを1つ選んでください

Q11の解答・解説を開く

正解:1

  • 1(正しい):権利の請願から、名誉革命を経て権利章典へとつながります。議会を重視する政治の発展と結びつけましょう。
  • 2(誤り):権利の請願と権利章典が逆です。
  • 3(誤り):名誉革命は1688年であり、1628年ではありません。
  • 4(誤り):名誉革命が1688年、その後の権利章典が1689年です。

本文を復習する:5.人権保障の歴史

Q12 アメリカ独立宣言とロック

1776年のアメリカ独立宣言とロックの思想のつながりとして、最も適切な説明はどれか。

答えを1つ選んでください

Q12の解答・解説を開く

正解:3

  • 1(誤り):政府に先立つ権利を守るという順序が重要です。
  • 2(誤り):人々の権利と同意から政府を考える説明とは異なります。
  • 3(正しい):自然権を保障するための政府という点に、ロックの思想とのつながりがあります。
  • 4(誤り):関連する思想ですが、財産と幸福追求という用語の違いを区別します。

本文を復習する:5.人権保障の歴史

Q13 フランス人権宣言の意味

1789年のフランス人権宣言について、最も適切な説明はどれか。

答えを1つ選んでください

Q13の解答・解説を開く

正解:2

  • 1(誤り):名前だけでなく、人権保障と権力分立という内容が重要です。
  • 2(正しい):今回学んだ立憲主義・権力分立と結びつく内容です。
  • 3(誤り):掲げられた理念と当時の現実には隔たりがあり、その後も権利拡大の運動が続きました。
  • 4(誤り):人間の権利や国民主権を政治の基礎に置く方向を示しました。

本文を復習する:5.人権保障の歴史

Q14 なぜ社会権が求められたのか

労働者が、生活のために不利な労働条件を受け入れざるを得ない場合がある。この問題と社会権との関係として、最も適切なものはどれか。

答えを1つ選んでください

Q14の解答・解説を開く

正解:4

  • 1(誤り):経済的な立場が異なると、条件を断れるかどうかにも差が生じます。
  • 2(誤り):自由を実際に使うための生活・教育などの条件が、別に必要になる場合があります。
  • 3(誤り):社会権は国家の積極的な保障を求めます。
  • 4(正しい):形式的に自由でも生活が成り立たない場合があるため、生活・教育・労働などの保障が重視されます。

本文を復習する:5.人権保障の歴史

Q15 ワイマール憲法と人権保障の広がり

ワイマール憲法と社会権について、最も適切な説明はどれか。

答えを1つ選んでください

Q15の解答・解説を開く

正解:1

  • 1(正しい):年・国・意義を結びつけ、自由権が社会権に置き換わるわけではないことも確認しましょう。
  • 2(誤り):1689年のイギリスの文書は権利章典であり、王権を制限する方向の文書です。
  • 3(誤り):生活の保障と、表現の自由などの保障は、どちらも必要です。
  • 4(誤り):社会権は「国家による自由」と整理され、国家の積極的な保障を求めます。

本文を復習する:5.人権保障の歴史

記述問題(2問:自分の言葉で説明)
「考えてみよう」の解答例を開く

多数決で成立した法律でも、憲法に反する人権侵害は正当化されません。政府への批判を一切禁じることは表現の自由を侵害し、権力を制限して人権を保障する立憲主義に反します。

「一言で説明」の解答例を開く

多数派が自分たちの私的な利益を優先する場合もあるため、多数決の結果は、共同体全体の共通利益を目指す一般意志と必ずしも一致しないからです。

今回のまとめ

国家権力は、人々の安全や権利を守るために必要です。しかし、集中しすぎると人権を侵害する危険もあります。だからこそ、立憲主義・法の支配・権力分立が重要になります。

用語だけを覚えるのではなく、「なぜその考え方や仕組みが必要なのか」まで説明できるようにしましょう。テキストの確認問題も解き、迷った部分はこの記事の該当する節に戻って復習してください。

授業動画に戻る

ほかの講義のテキストを探す

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!